新型となるマツダ・ロードスター(ND型)の価格がいよいよ発表になりました。MT設定のみのベースグレードが250万円という想定をほぼはみ出さない範囲に収まりました。スポーツカー好きな女性の「お買い物カー」としての顔も持つ2ペダルのロードスターは270万円〜で、NCのリトラクタブルハードトップモデルと変わらないです。2ペダルだと2Lで電動ルーフがあった方がなにかと親切なので、クルマをよく知らない人(年配の女性?)から「お金をたくさん取ろう」という悪企みを感じなくもないですが・・・。それでもお金持ちの団塊世代からしてみたら、これだけキャラが立っていて300万円で済むなら「お買い得」ということになるでしょう。
3代目NCロードスターが登場した2005年の段階では、トヨタがまだMR-Sやアルテッツァを販売していて、ホンダのS2000が高い評価を受けていたこともあり、なかなか大きなインパクトを残せなかったのですが、今回はフィアットからOEMの注文とともに開発費が回っているという情報が早くから出回ったおかげか、輸入車一辺倒のライターも否応なしに注目せざるをえないスポーツモデルとなっているようです。
過去3作のロードスターにはそれぞれにキャラがあって、ボディ剛性だとかエンジンだとか、車重だとかツッコミどころはどれも満載なんですが、そんな「へりくつ」を言わせないくらいに濃密にユーザーとつながった「文化」を持つシリーズであり、それと同時に日本の自動車産業の「奥行」を世界に見せつける「顔」的存在でもあります。しばしば日本車に厳しい評価を下す欧州カーメディアからも高い評価を受け続けていることもあって、「機を見るに敏な」日本の小者ライターでも、おいそれと失敗作と斬って捨てることはできなくなっています。しかしポルシェやアストンマーティンのように彼らが安易に否定できない「オーラ」がこのロードスター・シリーズにあるというわけではなく、単純にマツダの優秀なエンジニアが感性の赴くままにスポーツカーとして仕上げるわけですから、まかり間違っても駄作が出る確率は極めて低いということもあると思われます。
さて10年ぶりのフルモデルチェンジで、ライバルの顔ぶれも大きく変わりました。10年前から日本のライトウエイトスポーツ(LWS)は世界標準以上でしたので、MRーSもS2000も立派なグローバルモデルですが、もはやそれらがいない代わりに、86/BRZが短期間で日本を代表するLWSの頂点に君臨するようになりました。このクルマは開発資源をスバルに求めた結果なのかもしれませんが、従来の日本車LWSとは異なり、多分にGTカー的な要素が含まれていて、500km超のロングドライブにも駆り出してみたくなりそうな商品力を備えています。スポーツ専用設計にもかかわらず価格もしっかり抑えていて、これだけ使い勝手を考えてくれているならば、スポーツカーとしては異例の大ヒットするのもうなずける内容です。
この86のヒットに自動車業界は騒然として俄にLWSの新型モデルが「軽」規格を含めて次々にアナウンスされましたし、この影響を受けてマツダもロードスターの方向性をいくらか変えてくるのではないかという予測がありました。しかし昨年の秋頃にはプロトモデルが出てくると、全く86のようなコンセプトは指向しておらず、NC型において日本では圧倒的に人気のなったスチール製のリトラクタブルハードトップも廃止するなど、完全にトヨタの「逆張り」と言える設計になっていました。
どうやらトヨタとマツダの間は極めて友好的なようで、86とロードスターに関しても棲み分けをハッキリさせようという「紳士協定」があるかのようです。86の発売当初からユーザーの間では盛んにオープンモデルが要望されているようですが、コンセプトカーこそあったものの、その後は86のオープン化の話が全く具体的に出てきません。トヨタとしてもロードスターの市場を徹底的に潰した先に日本のお家芸となったLWSの繁栄があるとは考えていないようです。
ロードスターも86もそこら中で見かけるので、見慣れてしまって輸入車のスポーツモデルにくらべて少々有り難みが欠ける気もしますが、この2台の専用設計スポーツカーは世界中のブランドができることならOEMでラインナップに加えたいと思うほどのポテンシャルを持った孤高のクルマです。NDロードスターはフィアットからの発売が決まっているようで、ターボエンジンを積んだモデルが日本でも発売されるようです。BMW、ポルシェ、プジョー、ジャガー、ルノーといったスポーティなイメージを持った欧州ブランドからOEMで発売されても全く違和感がないどころか、そのブランドで最も純度が高いスポーツモデルとして「絶対的」な存在になれるでしょう。
3シリーズのシャシーをブッタ切って作った「Z4」、911のシャシーを徹底的にコストダウンした「ボクスター」、308のシャシーをそのまま使った「RCZ」、どれをとっても純度が低くて残念なのに日本価格だけ暴利に近いです。フェアレディーZのような工法を使ってLWSにしてしまっている浅はかさが欧州のクルマ好きを見事に失望させています。そのおかげでロータス、ケータハム、モーガンが絶賛され今も尚、生き残れているというメリットもあるわけですが・・・。そんな欧州市場でやはりスポーツカーを愛するイタリアのフィアットがいち早く「純度」を強調したスポーツカーへの回帰の動きを見せていて、今後継続されるかはわかりませんが、傘下のアルファロメオから発売された「4Cスパイダー」は設計・工法において21世紀の知恵と技術をふんだんにつかって「理想」を追求しています。
日本メーカーは・・・というと、峠の聖地「箱根」の東と西でメーカーの考えが分断されている気がします。「東軍(日産・スバル・三菱)」はまだまだドイツメーカー的なアプローチの「改造乗用車」がやりたいみたいですね。日産がポルシェと対峙し、スバルがアウディと比較されることが多いですが、三菱にはぜひ「ギャランフォルティス・ラリーアート」に代わるホットハッチでVWの「GTIシリーズ」に対抗してもらいたいものです。
「西軍(トヨタ・マツダ・ホンダ・スズキ・ダイハツ)」は乗用車とは切り離した「専用設計」にこだわりを見せているところが多いようです。東軍とは違って欧州には真似出来ない「日本スペシャル(LWS)」で世界に進出しよう!という商魂逞しい姿勢を感じます。ちょっと気掛かりなのが、「高性能車」の開発・生産拠点が栃木や埼玉にも展開されているホンダで、専用設計ミッドシップの「S2000後継」と改造乗用車の「シビックtypeRターボ」の両方に手を出しているようですが、そんな「なんでも屋」が上手くいくとは思えないのです。今の所「スーパーGT」も「F1」もまったくいい所がないですし・・・。それでもホンダはロードスターのコンセプトをオリジナルを上回る純度で再現できた唯一のメーカーですから、そのポテンシャルを信じたいと思います。
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